2026年6月、オフィス家具の見本市「オルガテック」の会場内に設けられた「商店建築ラウンジ」。ここで開催されたトークセッションに、SITURAEMON を率いる石川が登壇しました。
共に壇上に上がったのは、丹青社で空間デザインを手掛ける安元 直紀氏。ファシリテーターには月刊『商店建築』編集長の塩田 健一氏を迎えました。
トークセッションレポート前編では、「空間づくりの現場で、いま直面している課題とは何か?」塩田氏から投げかけられたストレートな質問に、立場の異なる2人が本音で答える模様をお届けします。思わず通行人も立ち止まる、熱気あふれるセッションをご覧ください。

安元 直紀 氏
株式会社 丹青社 デザインセンターエクスペリエンススペースデザイン局 ワークプレイスデザインユニット部長

石川 森生
ルームクリップ株式会社 『KANADEMONO』『SITURAEMON』事業責任者

塩田 健一 氏
月刊『商店建築』編集長
Q1.最近のクライアントからの「依頼内容」や「悩み」はどう変わった?

塩田氏(以下敬称略):まずはストレートな質問からです。皆さんがオフィス空間をつくる時、いろいろなお困りごとや直面する課題があると思います。お二人の立場から見て、最近お施主さんから多く寄せられる「依頼内容」や「悩み」ってどんな内容ですか?
安元氏(以下敬称略):昔は具体的な要件やコストバランスがはっきりした依頼が多かったのですが、最近は「コミュニケーションを活性化させたい」「共創を生み出したい」といった、ゴールが見えづらく解像度の粗いご依頼が多くなっています。

安元:背景には、企業の事業が「物売りから価値売り」に変化し、オフィスの正解がなくなっていることがあります。そのためデザイナーには、ただ設計するだけでなく、顧客に寄り添い、ストーリーやアクティビティをデザインする「企画脳」が求められています。
塩田:なるほど。以前ははっきりしていたゴールが、今はぼんやりと曖昧なお悩みになりつつあるんですね。一方、家具サプライヤーとしての石川さんの目にはどう映っていますか?

石川:私たちは空間づくりの裏側に入っていますが、受発注のプロセスを調べると、いまだに「電話やFAX」の比率が相当高いのが現状です。それに伴い、アナログなコミュニケーションが原因で「寸法の伝達ミス」や「仕様変更の連絡漏れ」などのミスを経験した人が3分の2にものぼっています。

アナログ起因ミスの経験。自ら経験した人(上位3項目の合計)は63.7%、社内での見聞きを含めると86.0%だった
石川:デザイナーが描いた素晴らしい計画が、下流の調達プロセスにおけるアナログなコミュニケーションによって阻害されている。ここに大きな課題感と、デジタル化による改善の余地(DXの可能性)を感じています。
Q2.社員が「行きたくなるオフィス」をどう作るか?

「オフィス建築の挑戦」をテーマに語る安元氏
塩田:次はオフィスづくりにおいて一番のテーマです。「行きたくなるオフィス(社員が出社したくなるオフィス)」をどうやって作ればいいのでしょうか? 皆さんも設計者として目指しているところだと思います。
安元:正直なところ、空間の魅力だけで「行きたくさせる」のは不可能です。ワークプレイスデザインにできるのは、強いコンセプトによる「動機づけ」と、そこに行かなければできない「体験のインストール」です。
例えば春華堂様の本社オフィスでは「ダイニングテーブル」を建築のコンセプトにし、地域の人が訪れて企業のマインドを感じられるようにしました。京セラ様のリサーチセンターでは「共創」をテーマに、プロトタイプをすぐ作れる工房(クリエイティブハブ)を配置し、モノづくりのライブ感を体験できるようにしています。
事例①:春華堂本社オフィス(静岡県)
「うなぎパイ」で知られる企業の店舗複合型オフィス。お菓子がもたらす「家族の幸せ」をコンセプトに巨大なテーブルや椅子をモチーフにした建築。
事例②:京セラ みなとみらいリサーチセンター
「まだ見ぬ世界へ共に旅立つ」というストーリーから、海や航海をテーマにしたイノベーションスペース。在宅勤務では得られない熱量を体験できる空間。
塩田:在宅勤務では得られない体験や、企業の姿勢を感じられる仕掛けが「行きたくなる」に繋がるということですね。石川さんの会社ではいかがですか?

中目黒にあるショールーム兼オフィス。トークセッション中のスクリーンにも紹介された
石川:私たちルームクリップが展開する『KANADEMONO(個人・住空間向け)』と、今回のオルガテックで本格デビューした『SITURAEMON(法人・ワークプレイス向け)』の拠点は、中目黒にあるショールーム兼オフィスです。
コロナ禍に創業したためフルリモート環境が前提ですが、あえてオフィスに投資をしました。メンバーが働くすぐ横に法人のお客様をお呼びし、実際に家具を使って働いている様子を見ていただく。
この「リアルな事例を見せる」オペレーションを組んだことで、成約率や LTV(顧客生涯価値)の向上という明確な営業成果に繋がっています。

中目黒ショールームには、実際にメンバーが働く様子とあわせて家具のラインナップが並ぶ
石川:経営者目線で言えば、デザインが優れているからといって社員が全員出社するわけではありません。しかし、「自分の働いている空間がシュッとしていて格好いい」「家族や顧客を呼びたくなる」と思える誇りや心地よさ、満足感のベースラインを作っておくことは、非常に重要だと感じています。
Q3.オフィス設計・施工業界の「DX化」は進んでいるか?

オフィス設計業界のDX化をテーマに語るセッションの様子
塩田:少し角度を変えます。空間設計や施工、家具什器の業界において「DX化は進んでいますか?」 デジタル分野でキャリアを積まれた石川さんと、設計の最前線にいる安元さん、それぞれに伺いたいです。
安元:丹青社の設計現場(上流工程)では進んでいます。CAD から BIM(Revit)への移行はもちろん、現場調査では「点群データ」を取得できるカメラを使い、採寸の手間を省いています。
遠隔地からブラウザで現場の進捗を確認したり、要件を入れると自動でプランが立ち上がる「テストフィットのプログラム」、AIを用いたラフスケッチからのパース生成なども社内でトライアルしています。

安元氏のラフスケッチ(左)をGeminiに投げると、レンダリングして出力(右)
塩田:点群データで現場調査の手間が省けるというのは非常に便利ですね。では下流工程にあたる、家具什器の調達側はどうでしょうか?

石川:アンケートを見ると、業界の約半数の方が「他業界より遅れている」と感じており、8割の方がオンライン化への移行を望んでいます。

「法人家具調達プロセスのDX実態調査」より。建設DXの中で「最も遅れている」17.8%、「やや遅れている」35.2%と、合わせて53.0%が遅れを感じていると回答(2026年5月/有効回答264)
石川:見積もりのやり取りや在庫確認など、本来デザインやプランニングに充てるべき脳のメモリを、アナログな事務作業に奪われているのが現状です。
私たちが『SITURAEMON』を通じて提供したいのは、このプロセスの省力化です。皆さんが本当に価値を発揮すべき「クリエイティブな時間」にフォーカスできるよう、デジタルで裏側のサプライチェーンを支えていきたいと考えています。
塩田:安元さんも石川さんもおっしゃる通り、点群データを使うのも、発注をデジタル化するのも、すべては「やるべきこと(クリエイティブな作業)に時間をかけられるようにする」ためなんですね。
Q4.これからの時代を生き抜く「人材の採用・育成」とは?

会場後方には SITURAEMON のブースも見える中、多くの来場者が話に耳を傾けた
塩田:4つ目の質問です。良い空間や家具を作るには人が不可欠ですが、人材がすぐ辞めたり育たなかったりと悩む方も多いです。「人材の採用や育成」はどうされていますか?
安元:採用面では現在、「キャリア採用」や新卒・第二新卒のほか、リファラル(社員紹介)など複数の窓口を設けてマッチングの精度を上げています。
育成において私たちがベースにしている考え方は、「成果=スキルと時間の掛け合わせ」であり、「スキル=クリエイティブ+ナレッジ(知識)」であるという点です。時間は有限ですから、知っていれば解決できる「ナレッジ」の部分をいかに効率化するかが鍵になります。

「デザインプロポーザルパッケージ」を用いた社内ミーティングの様子
安元:その施策の一環として、弊社では「デザインプロポーザルパッケージ」という独自のテンプレートを共有しています。会社のポリシーや過去の実績など、定型的なプレゼン資料をパッケージ化しておくことで、どの若手社員でも一定以上の高いクオリティでお客様に提案ができる仕組みです。
浮いた時間をクリエイティブな実践回数に投資させ、さらにデザイン周辺の知識(工程管理や予算算出)の勉強会を行うことで、お客様から信頼される一流のデザイナーを育てています。

石川:大手企業の素晴らしい教育アセットには、私たちのようなベンチャーは給与面でも仕組みでも太刀打ちできません。だからこそ、別の2つの軸で魅力を設計しています。
1つは「働くベースの柔軟さ」です。フルリモートを前提とし、優秀な子育て世代のママさんスタッフなども週3日勤務などで多数活躍しています。プライベートの制約があっても高いパフォーマンスを発揮できる環境づくりを徹底しています。

プライベートの制約があっても高いパフォーマンスを発揮できる、柔軟な働き方を採用している
石川:もう1つは「成長の機会(オポチュニティ)」です。私自身は家具の専門家ではないので、採用時には『皆さんの専門性を頼りにしている』とストレートに伝えています。
メンバーが「これをやりたい、絶対にうまくいく」と提案してきたものは、経営の観点からジャッジしつつも、基本的には全力で後押しして形にします。若手でもどんどん打席に立てる環境が、モチベーションの高い人材を惹きつける最大の武器になっています。
後編では、丹青社と SITURAEMON の2社がタッグを組んで開発した「今本当に欲しいオフィス家具」の中身に迫ります。